社員は、エスパーではありません。
これは、私がよくお伝えしていることです。社長の頭の中ではつながっていることも、言葉にしていなければ、相手には分かりません。
任せた仕事を見て、ここが気になる、これは違うと感じる。その感覚を説明するのが苦手な社長は、結構多いと思います。
直す場所や、変えてほしいやり方は伝えられる。でも、なぜ自分がそこを気にしたのかまでは伝えていない。その状態で、こちらの意図をくみ取ってもらうのは難しいですよね。
相手は、自分の頭の中を知らない。
まず、その前提に立って説明する必要があります。
自分はこう考えたから、ここが気になった。修正の手前にある理由から話す。その一か所を直して終わるのか、次の仕事でも自分で気づけるようになってもらうのか。そこで、伝える内容は変わります。
会社経営を通算20年経験してきた和泉利明です。今回は、任せた仕事を見直すときに、社長の感覚をどう伝えていくかをお話しします。
直してほしい理由は、相手からは見えない
例えば、社員がつくった提案資料を見て、説明の順番を変えてほしいと思ったとします。
最初に自社の商品やサービスの特徴が並び、お客様の困りごとに触れるのは後半。それを見て、先にお客様の話をした方がよい、と感じた。
そこで、順番を入れ替えて、と伝えれば、資料は直せます。指示されたとおりに動ける人なら、その場の修正はできると思います。
でも、なぜその順番が気になったのかは、それだけでは分かりません。
こちらの説明を先に始めると、お客様には、自分の相談を聞いてもらえていないように感じられそうだ。だから、まず何に困っているかを確認するところから入りたい。
例えば、そんなふうに説明する。自分が資料のどこを見て、どう受け止め、何を気にしたのかまで伝えます。
すると、社員にも、順番を変える意味が見えてきます。次に似た資料をつくるとき、お客様がどう受け止めるかを考える材料にもなる。
修正の指示だけでは、社長の頭の中にある理由までは渡せません。
社長の側では、いろいろな経験や感覚がつながって、このままでは気になるという判断になっている。その途中を省いて、最後の直し方だけを伝えていないか。ここは、確かめたいところです。
仕事の出来を見て、何となく違うと感じることもあると思います。ただ、その感覚は自分の中にあるものです。相手にも同じように見えているとは限らないのですよね。
だから、自分はこう考えたから、ここが気になった。
その手前から説明する必要があると思うのです。
一度で100%を求めない
理由を説明したからといって、すぐに同じ感覚で仕事ができるようになるとは限りません。そこも、難しいところだと思います。
一度伝えたのだから、次はできるはずだ。そう期待したくなる気持ちはあります。でも、説明を聞いて分かることと、実際の仕事の中で気づけることには、間があります。
100%できたか、できなかったか。その二つだけでは見ない。
少しずつグラデーションをかけるように、変わっていってもらう。
私は、そんなイメージを持っています。
最初は、こちらが気になったところを一緒に見て、なぜ直すのかを話す。次は、同じようなところに本人が気づけるかを確かめる。そのうえで、どう変えるかまで考えてもらう。
一つの仕事の中でも、できるようになった部分と、
まだこちらの説明が必要な部分は混ざっていると思います。
先ほどの資料の例なら、お客様の困りごとを先に書くことはできた。でも、その困りごとと提案のつながりが弱い。そういう段階もあると思います。
そこで、まだできていないと全体を戻してしまうと、本人には何が変わったのかが分かりにくい。お客様の話から入れるようになったことは確認し、次は、その話と提案がどうつながるかを一緒に見る。
直してもらう範囲も、説明する内容も、その人の理解に合わせて変えていくのです。
私自身、育成では成長のマイルストーンを本人と握り合っていました。次に何ができるようになればよいかを、一緒に決める。その考え方は、日々の仕事を直してもらう場面にも使えると思います。
一度の修正で完成させようとせず、次の仕事でも使える実力をつけてもらう。
一件をきれいに仕上げることと、その人ができることを増やすこと。両方を見ながら関わりたいのです。
「社長のコピペ」ができるように
少しくだけた言い方をすると、社長のコピペがうまくなるようなイメージです。
社長は何を見ているのか。どこで引っかかり、どう考えて直しているのか。その感覚を、相手の中にも少しずつ持ってもらう。
先ほどの資料で言えば、説明の順番だけを覚えても、お客様や提案する内容が変われば、また迷います。けれど、お客様がどう受け止めるかを気にして順番を変えた、と分かっていれば、別の資料でもその見方を使えます。
同じ形の資料をつくることから、社長が見ているところを自分でも見ることへ。そこまで進んでいくと、任せられる仕事も変わってくると思います。
そのためには、できあがったものだけを見せるより、直す途中も一緒に見てもらいたいのです。
ここを読んだときに、私はこう受け取った。だから、こちらの説明を先に持ってきた。この部分は残しておきたい。そうした考えを、その仕事に沿って伝える。
社長の感覚を共有できる機会は、仕事を直す途中にもあります。
完成したものを渡すだけでは、どこを大切にして、何を変えたかが見えにくい。でも、考えたことも話せば、本人が次に使える材料が増えます。
本人にも、なぜそう仕上げたかを話してもらう。こちらが気になった部分を、相手はどう考えていたのか。そこを聞くと、何を説明すればよいかも具体的になります。
同じ言葉で説明を繰り返すだけでは、分かりにくいこともあります。実際の資料を並べたり、一か所ずつ確かめたりしながら、感覚の違いを見えるようにする。それを重ねて、少しずつ近づけていくのだと思います。
無限ループにしないために
任せる。気になるところがあって、自分で直す。
次の仕事でも、また同じところを直している。
これでは、仕事を渡したはずなのに、社長の手元に戻ってきます。任せるたびに自分の仕事が増える感覚になってしまうと思います。
締め切りが迫っていれば、いったん自分で直すこともあります。ただ、完成したものだけを渡して終わると、本人には、なぜ直されたのかが残りません。その場で説明しきれなくても、後から修正前と後を見ながら、気になったことと、変えた理由を話す。
今回直したことが、次の一件で本人の判断に使えるか。
そこまでつなげたいのです。
次の仕事では、こちらが言う前に気づけたところはあるか。自分で考えて変えられたところはあるか。まだズレがあれば、どこをどう受け取ったのかを聞き、必要な説明を足していく。
一度で全部を任せられなくても、前回より本人が判断できた部分が増えていれば、前に進んでいます。そこを見ずに、残った修正箇所だけを見てしまうと、社長も社員も、いつまでも変わっていないように感じてしまいますよね。
理由を伝える時間は、目の前の一件だけを見れば、手間に感じるかもしれません。でも、その時間を使わず、毎回同じ説明と手直しを繰り返していたら、会社のこれからを考える時間はなかなか生まれません。
同じ修正に使っていた時間を、会社のこれからを考える時間に変えていく。
一件の修正を次の一件につなげ、社長が毎回抱え直す仕事を少しずつ減らす。そのために、判断の理由を伝えていきたいのです。
和泉に相談
修正を伝えれば直るけれど、次の仕事でも同じところが気になる。任せたいのに、どこまで説明すればよいか迷っている。
実際の仕事をもとに、社長が気にしていることと、担当者が理解していることを一緒に整理します。経営者向けの個別支援を通じて、判断の理由をどう伝え、少しずつ任せる範囲を広げるかを考えます。
