初めの頃は、売上を上げた社員を昇進させていました。
そして、それで困ったことが何度もありました。
本人は売れる。でも、課を任せるとうまくいかない。
自分が売れることと、人に伝えて育てることは、違う力なのだと感じました。
営業としての実績はある。その人に、何人ものメンバーを任せてよいかは、別に確かめる必要があったのです。
会社経営を通算20年経験してきた和泉利明です。今回は、売れる社員の昇進について、私自身の経験と、幹部に必要だと思う力をお話しします。
主任と課長では、求める役割が違う
私は、主任であれば、売上を重視して昇進を決める考え方もあると思っています。
主任には、営業としてお手本になる役割がある。実際に売上をつくり、周りのメンバーが仕事を学べる存在になる。そう考えるなら、本人がどれだけ売れているかは、大きな判断材料になります。
ただ、何人ものメンバーを抱える課長になると、求める仕事が変わります。
自分の商談を進めながら、メンバーがどこで困っているかを見る。うまく伝わらなければ、説明の仕方を変える。本人ができる仕事を増やし、チームとして売上をつくっていく。
主任には、売るお手本を。
課長以上には、売れる人を育てることを求めたい。
もちろん、役職の名前や任せる範囲は会社によって違います。ここでお伝えしたいのは、肩書が一つ上がるとき、期待する仕事まで同じままでよいのか、ということです。
営業として成果を出す仕事と、人を育てる仕事では、力を使う先が変わります。私は、この二つはベクトルが違うと思っています。
売れる人を評価することには、意味があります。そのうえで、メンバーを任せるなら、本人の成績以外も見る。私が売上を重視して昇進を決めていたときは、そこが十分ではありませんでした。
自分が売れる理由を、言葉にできるか
売れている人の中には、本人の感覚でうまくできている部分があります。お客様の反応を見て、話す順番を変える。ある説明を先に入れる。今は提案を急がず、もう少し話を聞く。AIでは真似のできない人間の細かい部分です。
ただ、その判断が、本人の頭の中だけで完結していたら、ほかの人へ伝えるのは難しい。
例えば、商談の途中で説明の仕方を変えたとします。何を見て変えたのか。最初の説明では、何が足りないと考えたのか。そこを話せると、メンバーも、自分の商談で何に気をつければよいかを考えられます。
話したセリフだけを覚えても、お客様の反応が違えば、そのまま使えるとは限りません。言葉にしたいのは、やったことと、その判断の理由です。
私が、育成や仕組み化には言語化が必要だと思うのは、ここです。自分が何をしているかを頭の中で整理し、相手が使えるように説明する。本人だけが分かっている感覚を、そのまま渡すことはできません。
さらに、言葉にできたら、それで教えられるとも限らないのですよね。
教える側には当たり前のことでも、聞く側には初めてのことがあります。説明に使った言葉の意味が分からない場合もあれば、意味は分かっても、実際にどう動くかが分からない場合もある。
そのとき、同じ説明を繰り返すだけでは、話が進みません。どこまで分かっていて、どこから分からないのか。相手の理解に合わせて、話を具体的にする必要があります。
自分が売れる理由を、言葉にできること。
その言葉を、相手が使えるところまで伝えられること。
この二つにも、違いがあります。
説明がきれいにまとまっているかより、聞いたメンバーが、次の仕事で何をすればよいか分かるか。伝える力は、そこまで含めて考えたいのです。
面倒見がいい人は、答えを渡すだけで終わらない
もう一つ、私が大切だと思っているのは、メンバーへの愛情です。
少し大げさな言葉に聞こえるかもしれませんが、シンプルに言えば、面倒見がいいということです。彼らが困っていることや、悩んでいることに、早く気づける。気づいたら、そこに関わろうとする。
売上の報告だけを聞いていれば、数字は分かります。でも、その人が何に迷い、どこで手が止まっているかまでは分からないことがあります。そこを気にかける人であってほしいのです。
ただ、育ってほしいという気持ちが強くても、やり方を説明できなければ、最後は気合いや根性の話になりやすいと思います。
頑張ってほしい。
もっとできるはずだ。
そう願っていても、メンバーには、何を変えればよいのかが残ってしまう。気持ちがあるからこそ、その人が動けるところまで伝える力が要るのです。
一方で、困っていることに気づくたび、上司が答えを出してあげる。
それも、私が考える面倒見のよさとは少し違います。
本人が気づき、自分で次の行動を考えられるように関わる。
そこまでを、人を育てる仕事だと思っています。
例えば、提案した後、お客様から返事が来ていないとします。上司が次に送る文章を全部つくれば、その場の連絡はできます。でも、それだけでは、本人が何を考えて連絡するのかが抜けてしまいます。
お客様は、何を気にしていたのか。前の説明で、答えきれていないことはないか。次に連絡するとき、何を確かめれば話が進むのか。そうした点を一緒にたどれば、本人が自分の提案を見直す材料になります。
ここが足りなかったのか。
それなら、次はこう聞いてみよう。
そうやって、メンバー自身が気づき、行動を変えられるようにしたいのです。上司の答えを待つだけになってしまうと、似た場面に出会うたび、また答えをもらう必要が出てきます。
もちろん、知らない知識まで、自分で考えれば分かるわけではありません。教える必要があることは伝える。その材料を使ってどう考えるかには、本人にも取り組んでもらう。何でも質問で返せばよい、という話でもないと思います。
子どもが、自分でできることを増やしていく過程にも似ています。困っていることには気づく。でも、毎回こちらが全部やってしまわず、本人が考えたり、やってみたりする機会をつくる。
手を貸すことと、本人に考えてもらうこと。その加減も、面倒を見る人に必要な力だと思います。
昇進を決める側にも、見るべき仕事がある
これまで売上を求めてきた人に、役職を付けて、人も育ててほしいと期待する。そこで課がうまくいかなかったとき、昇進させた側にも、見ておくべきことがあったのだと思います。
私が十分に見ていなかったのは、売れる本人と、教わるメンバーの間で起きていることでした。
例えば、相談を受けたとき。上司がどんな説明をしたかに加えて、相談したメンバーが何を理解し、次にどう動こうとしているかまで見る。説明は上手でも、相手が動けるところまで届いていないことはあると思います。
上司が答えを出せるかだけでなく、メンバーが自分で答えを出せるようになっているか。
部下の困りごとに気づき、考える時間にも付き合う。すぐに数字には表れなくても、そうした関わりを、昇進を決める経営者が責任を持って見ておきたい部分だと思います。
和泉に相談
営業として実績のある人を課長にしたけれど、メンバーの育成が進まない。幹部に、どんな役割を求めればよいか迷っている。
本人の営業経験をどう伝えるか、メンバーとの関わりで何が難しいか。実際の仕事をもとに、社長・幹部と一緒に考えます。法人向け研修を通じて、幹部の役割と育成の進め方についてお話を伺います。
