お客様が、自分で見つけた物件を持って相談に来る。価格も間取りも、周辺の物件も調べている。
こういうとき、自社の営業は何を提供できているでしょうか。
物件の情報を伝えて、内見を手配する。その対応は必要です。ただ、お客様がすでに知っていることを説明するだけでは、当社に相談してよかったと思ってもらう理由が足りません。
お客様が物件を見つけてきた後に、どんな仕事ができるか。そこに、仲介会社として磨くべき力があります。
不動産業に25年以上携わってきた和泉利明です。今回は、中古マンションの購入相談を例に、仲介会社の経営者として、営業にどんな対応を求めるかを考えます。
営業全般に通じる「お客様に価値を提供する」という話を、不動産の実務に落とすと、何をすることになるのか。そこを具体的にしてみます。
目次
お客様が選んだ理由で、調査の順番は変わる
例えば、お客様が、内装のきれいな中古マンションを見つけたとします。価格は予算内。リビングと隣の部屋をつなげれば、家族でゆったり過ごせそうです。
営業からの報告が「広さも価格も気に入っています。次は内見です」で終わっていたら、もう一つ確かめたいことがあります。
間取りを変えられなくても、そのお客様はこの物件を選ぶのか。
リフォームできることが購入の条件なら、その可否が分からないまま、購入の話だけを進めるわけにはいきません。面積や価格の説明より先に、確かめるべきことがあるのです。
ペットと暮らすことが欠かせない方なら、飼育に関する細則を調べる。車を手放せない方なら、駐車場があるかに加えて、その方の車を停められるかまで確かめる。必要な調査をする中でも、お客様の判断を左右する条件を先に押さえます。
条件を聞いたことと、その条件に沿って動けていることは違います。
社長が営業の報告を聞くときも、お客様の希望が並んでいるかだけでは見えないものがあります。その希望を受けて、何を先に調べることにしたのか。そこまで聞くと、営業がどこに注意を向けているかが分かります。
お客様が気に入っている。その事実を、営業が勧めてよい理由と混同しないことです。
資料をそろえた先に、提案する仕事がある
室内がきれいな物件でも、マンション全体の管理や修繕は別に見なければなりません。修繕履歴、長期修繕計画、修繕積立金に関する資料などを取り寄せ、内容を確かめます。
ここで、会社としてどこまでを営業の仕事と考えているかが表れます。
資料を渡して「見ておいてください」で終われば、読み解く仕事はお客様に残ります。「資料を取り寄せました」という社内報告だけでも、それをどう提案に使ったかまでは分かりません。
例えば、修繕積立金が上がる予定なら、変更後の金額で毎月の支出を考え直す。物件価格が予算内というだけで、そのまま話を進めない。購入後の負担も含めて、お客様に無理がないかを確かめます。
判断に必要な資料が足りなければ、何が分かっていないのかを伝え、追加で取り寄せる。調べた結果によって、次の対応が変わるはずです。
社内で確かめたいのは、「調査したか」に加えて、「その結果、何をお客様に伝えたか」です。
現地で気になる点があれば、見た印象だけで問題の有無を決めず、必要な調査につなぎます。建物状況調査、いわゆるインスペクションを使う場合も、対象や限界を説明する。調査をしたから、すべての不具合がないと言えるわけではありません。
分かったことと、まだ分からないこと。その両方を整理して伝えられるか。お客様の判断を支えるためには、ここまで営業の仕事に含めて考える必要があります。
専門家を紹介した後も、仲介の役割は残る
この例で、お客様が希望しているのは、隣の部屋とリビングをつなげることでした。
間取り図を見て「壁を取ればできそうですね」と答えるのは簡単です。でも、工事の可否は図面の印象だけでは決められません。建物の構造や設備の条件、管理規約、工事に関する手続きなどを確認し、必要に応じて建築士や施工会社の判断を求めます。
営業がすべての専門知識を持ち、その場で答えられる必要はありません。私は、誰に何を確認すれば話が進むかを考えられることも、プロの力だと思います。
ただ、施工会社の連絡先を渡して「後は相談してください」で終わると、購入を判断するために必要な答えが、担当の営業に戻ってこないことがあります。
どんな暮らしをしたくて、どこを変えたいのか。その工事ができることが、購入の条件になっているのか。そこまで相談相手に伝え、回答を受けて、お客様と次の進め方を考えます。
専門家につなぐことと、案件から手を離すことは違います。回答が出た後に、購入の提案をどう変えるかまでが、仲介の仕事です。
希望どおりには変えられないと分かったら、別の工事や部屋の使い方で希望に近づけるのかを考える。それでも購入の決め手だった希望が叶わないなら、別の物件を探すことも提案します。
ここは、経営者としても考えておきたいところです。契約を進める話だけを評価していたら、営業は、立ち止まる必要がある報告をしにくくなります。調べた結果、この物件は勧めにくい。その判断の根拠にも、耳を傾ける必要があるのです。
物件・工事・資金・日程を、一つの取引として見る
リフォームができると分かっても、それだけで取引が進むわけではありません。物件価格に購入の諸費用と工事費を加え、必要な総額と支払いの時期を確認します。
借入れを予定している費用が融資の対象になるか。いつ資金を受け取れるか。金融機関に確認し、引き渡しと工事、お客様の入居希望日を照らし合わせます。
総額が予算に収まっていても、資金を受け取る前に工事の支払いが来るなら、そのままでは進められません。手元のお金で対応できるか、支払い条件を相談できるか。工事の確認や手続きに時間が必要なら、入居までの予定も組み直します。
売主側、金融機関、施工会社。それぞれが自分の担当部分を進めていても、全体の日程が合っているとは限らないのです。
各社の話をお客様に取り次ぐだけでなく、その条件で取引全体が進むかを確かめる。ここに、仲介が担う仕事があります。
この対応を営業に求めるなら、会社側も、担当者一人に抱え込ませない体制を考える必要があります。工事や資金の話で判断に迷ったとき、社内では誰に相談するのか。どの段階で責任者が一緒に案件を見るのか。
「分からなければ聞いて」で済ませず、今どこで止まっているのかを聞く。誰の回答が出れば、次に進めるのかを一緒に整理する。社長や営業責任者が案件に入る意味は、そういうところにもあると思います。
契約の進み具合だけでは、営業の仕事は見えない
内見したか。申込みになりそうか。契約はいつか。会社として、進捗を把握することは必要です。
ただ、それだけでは、営業がプロとして何を提供したのかが見えません。
このお客様は、なぜその物件を選んだのか。調べて分かったことは何か。その結果、何を勧め、何はまだ決めない方がよいと伝えたのか。実際の案件について、ここを話せるかどうかです。
例えば、工事の可否が分からないなら、その回答を待つよう勧める。希望する暮らしを実現でき、費用や日程にも見通しが立つなら、その根拠を示して購入を提案する。事実と見立てを分けたうえで、担当者としての考えを伝えます。
私は、営業を育てるとき、この判断の理由を一緒に考えることが大切だと思います。確認が足りなかったなら、次の案件では何を先に聞くか。調査したことが提案に生きていなかったなら、お客様にどう説明すれば判断に使ってもらえたか。一件の振り返りが、次の対応につながります。
お客様が選んだ物件を、そのまま勧めるのではなく、調べた根拠を持って自分の意見を伝える。そういう営業を、会社として育てていくことです。
お客様が自分で物件を見つけてきても、仲介会社が提供できる仕事は残っています。その一件をどう見て、どう調べ、どう提案するか。
物件の説明ができているか。その先の判断まで担えているか。自社の営業を見直すなら、実際の商談をもとに、ここを確かめるところからだと思います。
参考資料
マンションの管理状況と建物状況調査については、国土交通省の次の資料も参考になります。
これだけは知っておきたい!マンションの管理状況チェックシート | マンション管理・再生ポータルサイト www.mansion-info.mlit.go.jp
和泉に相談
自社の営業が、物件の説明や連絡の取り次ぎで止まっている。工事や資金の話が出ると、担当者だけでは進め方を決めにくい。
そんなときは、実際の案件をもとに、何を確かめ、誰と連携し、どうお客様に提案するかを一緒に整理します。営業本人の対応と、それを支える会社の関わり方まで考えます。
