売主に広告の管理を提案したとき、最初はかなり冷ややかに見られました。
仲の良い方や、信頼関係があると思っていた方にも、すぐに分かってもらえたわけではありません。こちらに都合のいいことを言っているだけだと、受け取られているように感じることもありました。
広告を出す会社を絞り、価格や写真などの情報を管理する。当時、私が提案して回った相手には、まずその考え方から説明する必要があったのです。
仲介会社として、物件を任せてもらいたい気持ちは、もちろんありました。ただ、私が気になっていたのは、最後に買うお客様に、その物件がどう見えているかでした。
同じ物件なのに、違う販売価格が出ている。写真も、説明も違う。その状態を放っておいて、せっかく仕入れ、リノベーションした物件の価値が伝わるのか。
私は、そこを必死に伝えていました。
きちんと理解してもらうまでには、時間がかかった記憶があります。
会社経営を通算20年、不動産業を25年以上経験し、仲介会社を15年間経営してきた和泉利明です。今回は、売主へ広告管理を提案し、販売を任される関係になっていった経験をお話しします。
目次
同じ物件が並ぶと、売れ残りに見えることもある
きっかけは、SUUMOに掲載されている物件情報でした。
同じ物件が、いくつもの会社から掲載されている。その中に値下げ前の価格が残り、一つの物件に二つ、三つの違う価格が出ている。私が見ていた中では、そういう状態も珍しくありませんでした。
買う側から見たら、どれが今の価格なのか分かりませんよね。それに、検索するたびに同じ物件が何件も出てくれば、売れ残っているように見えることもあると思います。
例えば、5,000万円で売り出し、4,500万円、4,000万円と価格を変えた物件で、古い広告が更新されずに残っていたら。お客様には、値下げを重ねている様子まで見えてしまいます。
なかなか売れず、売主が困っているのではないか。もう少し待てば下がるのではないか。それなら、もっと値引きをお願いできるのではないか。そう受け取られる可能性もあります。
売るために出している広告が、買い手に足元を見られる材料になってしまう。
私は、その見え方を気にしていました。この状態でたくさん掲載されていることが、売主にとってプラスに働いているとは思えなかったのです。
写真についても、撮り方が違うだけではありませんでした。別の物件の写真が載っているものもあったのです。それでは、検討している物件そのものを、正しく見てもらえません。
私が話をした売主業者では、自社の物件がどう掲載されているかを把握していた会社は、一社もありませんでした。
仕入れやリノベーションには、時間も費用もかけている。設備を選び、工事をして、販売価格を決める。ところが、お客様が実際に目にする情報には、そこまで手が届いていない。
売主がつくった物件と、お客様が広告で見ている物件。
その間に、大きなズレがありました。
今の正しい価格と、その物件の情報をそろえて伝える。リノベーションで工夫したところも、お客様が選ぶ理由として受け取れるようにする。
私は、ここに仲介会社が引き受けられる仕事があると考えました。
出口が弱くなると、仕入れにも影響する
こうした広告の見られ方は、売主の事業にかなり影響すると私は見ていました。買取再販会社は、物件を仕入れ、手を入れ、販売して資金を回収します。最後に買うお客様が、その物件をどう受け止めるか。ここまで含めて考える必要があります。
売れ方が変われば、次の仕入れの判断にも影響します。
例えば、想定した価格で売れず、販売期間が延びて値下げが必要になれば、残る利益は変わります。回収が遅れれば、次の物件へ使える資金にも影響する。その売れ方を前提にすれば、次にいくらで仕入れられるかも変わってきます。
出口が弱くなると、入口も弱くなる。
私は、そう考えていました。
広告の内容を整えれば、必ず希望価格で売れるという話ではありません。物件の条件も、相場も関係します。ただ、価格や写真が食い違ったままでは、買い手に正しく検討してもらうところからつまずいてしまう。
仕入れた物件を、どんな情報で、誰に届け、どう販売するのか。売主の事業を考えるなら、ここまでつなげて見ておく必要がある。私は、そのことを伝えたかったのです。
お客様が見ている景色を、売主にも見てもらった
私が提案したのは、SUUMOなどのポータルサイトへの広告掲載を当社にまとめ、価格や写真、説明を管理する方法でした。
ただ、相手から見れば、当社へ問い合わせを集める話にも見えます。親しい相手にも、自社が得をするために言っているのではないかと受け取られているように感じました。
そんな中、私の取り組みに興味を持ってくれた会社がありました。私はそこへ、その会社の販売データをたくさん持っていきました。
お見せしたのは、お客様が実際に目にしている掲載情報です。同じ物件なのに、掲載価格が違う。20件くらい掲載されているものもある。その状況をお見せしながら、お客様にはどう見えているかを、一つずつ紐解いていきました。
売主が見ている物件と、買うお客様が見ている景色を、重ねて見てもらう。
さらに、問い合わせがいろいろな会社へ分散した後、誰がその物件を説明するのか、という話もしました。物件に興味を持ってもらえたとしても、接客する営業がその良さを伝えられなければ、販売にはつながりにくいからです。
同じリノベーションでも、会社が違えば中身も違う
一口にリノベーションといっても、会社ごとに違いがあります。
どこまで施工しているのか。どんな部材を使っているのか。購入後のアフターサービスは、どんな内容なのか。ブランドとして何を大切にしているかも違います。
同じ「リノベーション済み」でも、ひとまとめにはできないのです。
幅広い物件を紹介する営業が、その売主の施工内容やアフターまで、詳しく知っているとは限りません。知らなければ、お客様にも説明できませんよね。
その会社がなぜこの部材を選び、どこまで手を入れているのか。購入後にはどんな対応を受けられるのか。そうした違いを理解したうえで、お客様の気がかりに合わせて話せる。その知識と営業の力があって、物件の良さは伝わると思っていました。
同じ売主の物件を繰り返し扱えば、その会社の考え方が分かってくる。リノベーションの知識も積み重なる。それを次の接客で使い、説明を磨いていく。
何度も扱うことで、その会社の物件の伝え方がうまくなっていく。
広告を管理する提案と合わせて、そういう営業を育てていく考えもお伝えしました。掲載情報をそろえることから、物件を理解した営業が接客することまで。そこをつなげた販売の仕組みを考えていたのです。
その話に納得していただき、私はその会社と専属で契約を結び、販売を引き受けることになりました。
さらに、他の会社からも、この取り組みをやってみたいという声をいただくようになりました。そこから、仕事の幅が広がっていったのを覚えています。物件を紹介してもらう関係から、販売を任される関係へと変わっていきました。
広告を任されたら、管理を続ける責任がある
もちろん、他の仲介会社からのお客様の紹介や案内、申込みは、通常どおり受けていましたが、広告管理で手がかかったのは、掲載のルールを決めた後でした。
すでに出ている広告がある。許可を取らずに掲載されるものもある。そのため、売主にも協力してもらい、掲載状況を確認し、必要な取り下げをお願いする対応を続けました。
広告をまとめる提案をした以上、その後も情報を見続ける人が要ります。
仕事が広がるにつれ、撮影や掲載、営業の体制も整えていきました。カメラマンを雇い、広告掲載を支える事務の人員を増やし、営業担当者の教育にも力を入れました。
その売主が、どんな考えでリノベーションしたのか。どの設備を交換し、どこを残したのか。価格や広さだけでなく、物件の背景まで理解して答えられるようにしたかったのです。
写真で伝えること。広告の文言で伝えること。内覧で説明すること。任せてもらう仕事は、掲載だけでは終わりませんでした。
任された後も、買うお客様の目線は外せない
この取り組みは5年以上続き、反響も成約も増えました。その一方で、売主から期待される販売も増えていきました。
売主としては、自社の物件に入った問い合わせなら、その物件を成約してほしい。私たちも、任された物件を売りたいと思っています。でも、希望や予算を伺ってみると、別の物件の方が合うお客様もいます。
売主の期待には応えたい。
お客様には、その方に合う物件を選んでいただきたい。
当時は、別の物件を提案しにくい場面もあり、ここは悩みました。
買うお客様からどう見えるかを考えて始めた仕事です。それなのに、任された物件を売ることだけで考えてしまえば、そのお客様の希望が後ろに回ってしまう。
広告を管理する方針だけでなく、問い合わせの物件が合わなかったときにどう提案するか。その営業の方針まで、売主と話しておく必要がありました。
また、期待に応えるために増やした人員や広告費が、会社の負担になっていった経験もあります。仕事を任せてもらえたことと、無理なく続けられる体制をつくれたかは、別に考える必要がありました。
成果が出た部分もあれば、難しさが増えた部分もある。その両方を経験しました。
売主がつくった価値を、買い手まで届ける
それでも、広告の問題を見つけて提案したことを、間違いだったとは思っていません。
仲介会社として、物件を任せてもらいたい。そのために、相手の仕事を見て、自社に何ができるかを考えた。私の場合は、売主が仕入れや工事にかけたものが、買うお客様に届くまでの間に、引き受けられる仕事がありました。
最初は、自社に都合のいい提案だと見られました。けれど、私が伝え続けたのは、最後に買う人がどう見るか、そして、その売れ方が売主の次の仕事にどう影響するかということでした。
仕入れて、つくった価値を、買い手に届くところまで見る。
不動産会社の経営に関わる立場として、私はここを大切にしています。
和泉に相談
売主業者との取引を広げたい。物件の紹介を待つ関係から、販売の仕事を任される関係へ進みたい。
今の取引や掲載状況をもとに、売主に何を提案できるか、引き受けた仕事をどう続けるかを一緒に考えます。ご相談は、以下のお問い合わせフォームからお寄せください。
