一括査定の反響を買い、営業担当者が連絡する。査定をして、売却の依頼をいただこうとする。何百件という単位で反響を購入し、この営業を続けている会社も見てきました。
ただ、同じ売主に、他の会社も提案しています。
そこで始まるのが、査定額と手数料の競争です。
他社より高い査定額を出す。
それでも選ばれなければ、手数料を下げる。
さらに、無料のサービスを付け加える。
反響を買うためにお金を使い、仕事を受けるために自分たちの報酬を下げる。会社として、この競争を永遠に続けていくのか。
不動産業に25年以上携わり、仲介会社を15年経営してきた和泉利明です。現在は、不動産会社の経営者を支援する立場で、経営や営業の実務を支援しています。
特に、中小の不動産会社が、資金や人員に余力のある会社と同じ競争を続けてよいのか。顧問として関わるうえでも、私はここを考える必要があると思っています。
高い査定額の向こうに、買主はいるのか
売主が、少しでも高く売りたいと思うのは自然なことです。複数の会社から金額が出てくれば、高い数字を出した会社に期待したくなる。その気持ちは分かります。
だからこそ、不動産会社には説明する責任があると思っています。
査定額は、実際に売れる金額ではありません。
売り出す価格を決めた後も、購入を検討する方が、その条件で買いたいと思うかどうかが残っています。査定価格・売出価格・成約価格は、それぞれ違うものです。不動産適正取引推進機構「不動産売買の手引」
買主は、ほかの物件も見ます。予算があり、比較する相場もある。売主との面談でいくら高い金額を伝えても、その比較がなくなるわけではありません。
高い査定額を出せば、その金額で買う人が現れるわけではありません。
根拠に乏しい高値で売り出せば、問い合わせや内覧につながりにくくなることがあります。そこで初めて価格を下げる話になれば、売主は何を信じて任せたのか、ということになりますよね。
私は、売れる根拠や道筋を示さず、媒介を取るために高い数字だけを出すやり方は、無責任だと思っています。
高く売るために工夫することには、意味があります。その物件のどこに価値があり、どんな買主に届けば、その価格を検討してもらえるのか。そこまで考えて提案しているかです。
高い数字を言うことと、高く売る仕事をすることには、間があります。
その間にある仕事を、売主に伝えられているか。会社として、まずここを問い直したいのです。
次は、手数料の勝負になる
査定額だけでは選ばれない。すると今度は、手数料を下げる提案が出てきます。私が見聞きしてきた中にも、手数料率を2%、さらに1%へと下げ、依頼を得ようとする例がありました。
売主にとって、支払う費用が少なくなるのは分かりやすいメリットです。こちらが仕事の違いを説明できていなければ、安い方がよいと思われても不思議ではありません。
ただ、会社の側には、先に払った反響の獲得費用があります。連絡し、調査し、査定をつくる人の時間も使っています。そのうえで報酬を下げるなら、一件を受けられたという結果だけでは、事業として続けられるかは分かりません。
依頼は増えた。でも、その仕事にかけられる費用や時間は減っていく。
そんな状態になっていないかも見ておきたいのです。
手数料を下げる判断には、業務の効率化や、サービスの範囲に応じた理由もあります。一方で、他社が下げたからこちらも下げる、それだけになってしまうと、自分たちがどんな仕事をして、いくらの報酬を受け取るかを決めにくくなります。
本来、会社が説明したいのは、売却に向けて何を引き受けるかです。売主が判断に迷ったときに、どんな材料を出せるか。販売が進まないときに、どこを見直せるか。
その違いが伝わらないまま、最後のひと押しを値下げに頼る。これが続くと、営業担当者も、金額を動かす以外の提案を磨きにくくなると思います。
無料サービスの競争に、中小はどこまで付き合うか
手数料の値下げだけではありません。クリーニングをサービスします、これも付けます、あれもやります。そうした提案を重ねる会社もあります。
売主から見れば、無料でしてもらえることが増える。これも、選ぶ理由になりやすいですよね。
ただ、無料なのは売主にとっての話です。会社の側には、費用も、手配する人の仕事も残っています。報酬を下げながら、引き受けることは増えていく。
大手など、資金や人員に余力のある会社なら、そうした負担を織り込んで営業を続けられる場合もあると思います。でも、中小の会社が同じ条件を追いかけたらどうなるか。依頼を取るための負担が増え、受けた後の仕事に使えるお金と時間が苦しくなる。競争に付き合い続けること自体が、難しくなってしまいます。
他社がやっているから、自社もやる。その積み重ねで、会社が持ちこたえられなくなるのは避けたいのです。
もちろん、クリーニングが物件の印象を良くし、販売の助けになることはあります。サービスを付けること自体が問題なのではありません。
この物件を売るために、必要だから提案しているのか。
他社との競争に勝つために、付け足しているのか。
ここが入れ替わっていないかです。
本来は、売主の物件をどう売るかを考えていたはずです。それが、目の前の会社より良い条件を出し、依頼を取ることに変わっていく。私は、そのずれが気になります。
営業担当者に、もっと頑張れと言っても、会社の予算や人員は増えません。中小の経営者が考えるべきなのは、競合の提案にどこまで上乗せするかではなく、自社は何で選んでもらうかだと思うのです。
他社の特典に追いつくために、予算を使い続けるのか
媒介が取れなかったから、次の反響へ。
件数が足りないから、購入する反響を増やす。
目の前の売上を考えれば、そうしたくなる気持ちは分かります。私も会社を経営してきたので、営業に向かう先があることの大切さは理解しています。
ただ、その先でまた値下げと無料サービスを求められるなら、同じ競争に参加する回数が増えるだけかもしれません。反響を増やす前に、会社のお金を何に使っているのかを考えたいのです。
他社の特典に追いつくために、予算を使うのか。
自社が力になれる売主に、知ってもらうために使うのか。
例えば、住み替えに伴う売却の相談に強い会社なら、売却と購入の順番や、引っ越しの時期で何を迷いやすいのか。自社がどんな相談に乗り、何を調整できるのかを伝える。単に地域密着です、親身に対応しますと言うより、任せる仕事が見えてきます。
その説明を、査定で他社と並んだときだけにしていては、出会うたびに金額の比較から始まってしまいます。自社のサイトや日頃の発信で、相談する会社を探している方にも届けておく。過去の仕事を紹介するなら、成約した事実だけで終わらせず、売主が何に困り、会社として何を引き受けたのかまで伝える。
そうした内容を整理し、届ける仕事にも、人の時間と費用がかかります。反響への対応で予定が埋まっていれば、自然には進みません。会社として、そこに使う時間を確保する必要があります。
営業に工夫を求めるなら、会社も、その工夫に時間と予算を使う。
ここは、経営者が決めるところだと思います。
別の入口をつくれば、すぐに依頼が増えるわけではありません。だから、目の前の営業を続けながらでも、自社を知って相談してもらうための仕事を進めていく。次に反響を買う予算や、無料サービスを増やす費用を決めるときに、その使い道も一緒に考えておきたいのです。
経営者向けの個別支援を通じて関わるうえでも、媒介が何件取れたかだけで話を終わらせたくありません。何を約束して依頼を受け、その仕事を続けられるだけの報酬が残るのか。そこまで含めて、会社の営業を見ます。
大手と同じ特典をそろえ、同じように報酬を下げる。その競争に、中小の会社が付き合い続ける必要はないと思っています。
限られた予算を、他社の条件に合わせるために使い切ってしまうのはもったいない。売主の物件をどう売るかを真剣に考え、その仕事を必要としている方に知っていただく。私は、そこに会社のお金と時間を使ってほしいのです。
和泉に相談
一括査定に費用をかけ、手数料を下げ、無料サービスも増やしている。それでも競争が厳しく、自社が選ばれる理由を言葉にできていない。
そんなときは、実際の一件で、何を提案し、何を約束して受託したかを聞かせてください。獲得にかかった費用と、その後に担う仕事も確かめながら、今の予算の使い方と、自社の仕事を知って相談してもらう方法を一緒に考えます。
