「少し考えます」
商談でそう言われたとき、営業は何をするか。お客様に考えていただく時間は必要です。ただ、迷っているご本人も、何について考えればよいか分かっていないことがあります。
費用も気になる。使い方も気になる。そもそも今、必要なのかも分からなくなっている。その全部を抱えたままでは、考えるのも大変ですよね。
そこで毎日電話をして、安心してくださいと伝える。
それで、何が解決するのか。
不安に付き合っているだけでは、その理由は残ったままです。
何が引っかかっているのか。どうして、そう感じるようになったのか。私は、そこを細かく聞いていくことが必要だと思っています。
和泉利明です。営業顧問・営業代行などを含め、これまで約50社と契約してきました。今回は、お客様の「考えます」の中にある、営業が引き受ける仕事についてお話しします。
目次
毎日電話しても、不安の理由は残る
連絡を絶やさず、お客様を気にかける。それ自体は大切なことです。でも、連絡を取れていることと、不安の中身が分かっていることは別だと思います。
例えば、購入した後にどんな費用がかかるか分からず、迷っているとします。営業が毎日電話をしても、その費用が分からないままなら、お客様は同じことを考え続けることになります。
営業の側は、しっかりフォローしているつもりかもしれません。
それでも、お客様の手元には、判断するための材料が増えていない。
ここは、気をつけたいところです。
「安心してください」と伝えたくなる気持ちも分かります。ただ、何が不安なのかをつかめていないうちに、こちらの言葉だけで安心していただくのは難しいと思うのです。
不安だと聞いたら、なぜそう感じているのかまで聞く。
そこが分からないと、こちらが何をすればよいかも分かりません。
金額のことなのか。買った後の使い方なのか。
ほかの選択肢と比べて、これを選んでよいのか。
困ったときに、きちんとサポートしてもらえるのか。
家族や社内の人に、納得してもらえるのか。
それとも、今決めること自体に迷っているのか。
同じ「不安です」でも、必要なフォローは変わります。
まず、その違いを知りたいのです。
顧客の「不安」を細分化する
ただ、お客様に聞けば、すぐに理由が出てくるとは限りません。うまく説明できないけれど、決めきれない。そんな状態で相談している方もいると思います。
だから、一度聞いて分からなかったら、それで終わりにはしません。いつから気になったのか。説明のどの部分で引っかかったのか。話していただいた内容を受けて、もう一つ具体的に聞いてみる。
例を出して確かめることも効果的です。
例えば、費用の話なら「最初の支払いより、その後も支払いが続くことが気になりますか」と聞く。使い方の話なら「操作そのものより、困ったときに相談できるかが気になりますか」と聞いてみる。
そうではないと言われたら、どこが違うのかを聞く。
その違いも、相手が考えていることを知るヒントになります。
お客様が、最初から整理して話せることを前提にしない。
よくある不安には、アンサーを用意しておく
業種や売っているものが同じなら、お客様が抱える不安には、共通するものがあります。費用のこと、使い始めてからのこと、サポートのこと。商談を重ねると、同じようなところで迷う方がいると分かってきます。
それなら、毎回その場で考えなくてもよいですよね。
普段の商談で出てきた不安をリストにする。そして、その一つひとつに対するアンサーもつくっておく。何を説明し、どんな資料を見せれば判断の材料になるかまで、準備しておけます。
よくある不安と、それに対するアンサーを、セットで持っておく。
例えば、費用が気になる方に向けて、最初にかかる費用と、その後も続く費用をまとめておく。使い方に不安がある方には、実際の操作や利用の流れを見せられるようにする。サポートについて聞かれたら、対応できる範囲や相談方法を説明できるようにしておく。
こうした準備があれば、お客様から不安を打ち明けられたときに、説明する言葉や資料を一から探さずに済みます。
その場で何とか答えようとしていると、次に自分が話すことばかり考えてしまう。お客様の話を聞く余裕まで、なくなることもあると思います。
アンサーを用意しておくことで、商談の中に余裕が生まれる。
説明を聞いて納得されたのか。まだ、何か引っかかっているのか。準備ができていれば、そこに気を配り、もう一つ質問する余裕もできます。
お客様の不安をメモするのは、次の商談の準備につなげるためです。よく聞かれることに答えられる状態をつくってから、お客様の前に出る。それも、営業の大切な仕事だと思っています。
考えることと、調べることを分ける
気がかりが少しずつ出てきたら、今度は、その中身を分けます。
お客様自身が考えること。
営業が調べれば分かること。
今はまだ、答えが出ないこと。
例えば、費用の総額が分からないのであれば、必要なのは確認です。何が含まれ、何に追加費用がかかるのか。こちらが調べて示せることを、お客様が一人で考えていても答えは出ません。
一方、その金額を出してでも実現したいことなのかは、お客様自身が考える部分です。何を優先し、何なら見送れるか。そこは、営業が代わりに決められることではありません。
調べれば分かることまで、お客様の悩みとして残さない。
こちらが一つ確認するだけで、お客様に考えていただく範囲は変わります。全部が分からない状態から、ここは分かった、あとは何を選ぶか、という状態に近づけられるからです。
ただ、調べても今は答えが出ないこともあります。使い始めてから自分に合うか、先の状況がどう変わるかまで、すべて確定させることはできません。
試せることは試す。確認できたことを伝える。そのうえで、まだ分からないことも一緒に整理する。そこまで話せれば、お客様も、何を受け入れて選ぶのかを考えられます。
不安を全部なくすと約束するのは難しい。でも、営業が少し手を動かすことで、考える負担を軽くできる部分はあると思っています。
希望が変わったら、その理由を聞く
話を聞く中で、初めに伺った希望と、今の希望が変わっていることもあります。最初の条件に合わせて準備してきた営業は、戸惑うかもしれません。
ただ、そこで「前はこうおっしゃっていましたよね」と、以前の話に戻す必要はないと思います。
実物を見て気づいたことがある。説明を聞いて、使い始めてからのイメージが変わる。検討する間に、別の事情が出てくることもあります。
聞きたいのは、そう考えるようになった理由です。
例えば、業務ソフトを探していて、初めは機能が多いものを希望していたとします。でも、もともとの目的は、同じ情報を何度も入力する手間を減らすことだった。説明を聞くうちに、機能を増やすための準備や、社員が覚える負担の方が気になってきた。
そうであれば、機能の多さをもう一度説明しても、今の迷いには答えられません。何の手間を減らしたかったのか。そこに必要な機能は何か。導入にどんな準備がいるのかを、一緒に確かめます。
欲しいものを比べているうちに、実現したかったことからズレていないか。
商品を選ぶ前に、ここを整理したいのです。
最初の目的そのものが変わっているなら、その理由も聞きます。以前の話は、変化を知る手がかりになる。何が変わったかを理解できれば、提案のどこを見直すかも分かってくると思います。
買わなかったお客様の声を、会社で生かす
話を聞き、必要な説明をしても、買わないと判断されることはあります。そのとき、失注という結果だけを残して終わってしまうのは、もったいないと思うのです。
買わなかったお客様の声にも、次の商談を良くするヒントがあります。
例えば、価格が合わなかったというお話でも、予算を超えていたのか。その金額を払うだけの価値が伝わっていなかったのか。使い始めた後の負担が分からず、決めきれなかったのか。理由が違えば、次に見直すことも変わります。
何が最後まで引っかかっていたのか。どんな情報があれば判断しやすかったのか。見送った理由を伺えたら、その言葉を会社に残しておきたいのです。
そこで聞けたことは、一人の担当者だけが知っている状態にしない。
お客様が話された理由と、担当者が考えたことを分けてメモする。その内容を営業責任者やほかのメンバーと共有し、同じところで迷うお客様がいないかを確かめます。
同じ不安が繰り返し出てくるなら、アンサーを追加する。説明が伝わりにくかったなら、資料や伝える順番を見直す。提案した内容が合っていなかったなら、何を伺ってから提案するかを考える。
必要とされている機能やサポートが足りなかったなら、商品やサービスの内容を見直す材料にもなると思います。
お客様の声を、営業が次に使うものへ変えていく。
会社としては、商談を振り返るときに見送られた理由も確認し、何を変えるか、誰が準備するかを決めておく。更新したアンサーや資料を次の商談で使い、そこでのお客様の反応も共有する。これを普段の仕事に組み込めば、会社の仕組みにできます。
買わなかったお客様の声が、次のお客様に向き合う準備につながる。
一件の商談で分かったことを、会社の中で積み重ねていく。経営者や営業責任者には、その流れをつくる仕事もあると思っています。
和泉に相談
商談は続いているけれど、検討中のまま動かない。連絡は取っているのに、次に何をフォローすればよいか分からない。
そんなときは、実際のやり取りをもとに、まだ聞けていないこと、お客様が考えること、自社で確認できることを一緒に分けます。法人向け研修を通じて、担当者や営業責任者と商談の進め方を考えます。
